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2021.08.04FOCUS

「後継者」というキャリア選択。起業志望者の間で注目を集める「事業承継」とは

20代の働き方研究所 研究員 T.H

事業承継とは

「事業承継」と聞いて、皆さんはどんなイメージをもちますか?もし、「オーナーが親族に経営を譲ること」というイメージしかないのであれば、少しもったいないかもしれません。
たしかに「事業承継」は、会社の経営を後継者に譲り、事業を継続していくことを指します。しかし現在、国内の中小企業を中心に、子や親族内で後継者が見つからないことから、事業が継続困難になり、廃業にいたるというケースが多発しています。そこで、後継者不足という問題を解消するため、これまで主流だった「親族内承継」以外にも、さまざまな事業承継の方法が取られています。

親族が経営者であるなど、一部の人だけのものと思われがちだった「事業承継」は、いまや多くの人にそのチャンスが与えられています。また、起業を志望する20代の中でも、新たなキャリアパスやキャリア形成のための手段の一つとしてとらえる向きもあるなど、「事業承継」にまつわるさまざまな可能性が広がってきています。

事業承継における3つのパターン

まず、事業承継には大きく「親族内承継」「親族外承継」「事業承継型M&A(合併・買収)」の3つのパターンがあります。それぞれ見ていきましょう。

・親族内承継
経営者の子や親戚に事業を承継する、いわゆる世襲制の事業継承が「親族内承継」です。しかし、少子化や子・親族が家業を継ぐ意思がないなどの理由により、減少傾向にあります。そうした中で注目を集めているのが、親族の事業をそのまま承継するのではなく、その経営資源を活用しながら新しいビジネスを起こす「ベンチャー型事業承継」です。
すでに顧客リストや取引先があり、場所や設備、従業員など、事業に必要な資産が揃っている中で新しいビジネスを起こせるため、いわば家業と起業の“いいとこどり”ができるという特長があります。
この「ベンチャー型事業承継」は、2017年に中小企業庁が発表した「事業承継5カ年計画」にも施策として盛り込まれ、補助金制度や税制も整えられているなど、サポートも充実してきています。

・親族外承継
経営者の親族以外の後継者が事業を承継することを「親族外承継」といいます。親族以外とはいっても、これまでは事業を引き継ぐ対象を社員などの関係者に限定することが一般的でした。
しかし近年、中小機構による「後継者人材バンク」のように、事業者と縁のない起業志望者を後継者として引き合わせる取り組みも始まっています。これは起業志望者と、後継者不在の会社や個人事業主をマッチングさせることで、「起業」と「事業承継」の二つを同時に実現させる取り組みです。起業を志す人にとってはもちろん、事業者、顧客、仕入先など事業継続を求める声にも応えることができるため、社会課題の解消にもつながります。
「親族内承継」と異なり、親族以外にもチャンスがありながら、「親族内承継」と同様のメリットを享受できるため、起業志望者にとっては0から起業する以外の有力な選択肢になりうるのではないでしょうか。

・事業承継型M&A(合併・買収)
M&Aは、事業を別の企業や個人へ「合併・買収」というかたちで譲渡する方法です。これまで中小企業におけるM&Aでは、知り合いの企業に売り渡すというケースが多く見られました。しかし近年、意欲のある企業や個人へ自社を売却することで事業を存続・発展させようとする動きが活発になってきています。
その背景には、起業や事業を売却したい人と買い取りたい人をマッチングするサービスを行う企業や、それをネット上で行うプラットフォームの台頭があります。それらのサービスを利用し、小規模の会社や事業を買収する「スモールM&A」や「個人M&A」の活性化につながっています。
起業に比べ、素早く事業を始められることや、初期投資を安く抑えられることもあり、事業承継型のM&A件数は年々増加傾向にあります。案件の相場は数百万円ほど、中には100万円以下で買い取れる案件もあるため、若手の起業志望者などを中心にニーズが広がっています。

事業承継で気をつけるべきこととは

事業承継プロセスの中でとりわけ難しいのが、「見えない知的資産」の承継です。経営者の思いや創業の経緯、経営理念、企業文化など、これまで築いてきた無形資産。事業を引き継いだ場合は、時間をかけてそれらを理解した上で、経営判断を行う必要があります。
先に紹介した3つのパターンでは、「事業承継」における、すでにある資産を活かして事業を始められるメリットに焦点を当てて紹介してきました。しかし、事業承継後にこれまでの企業文化を刷新する場合は、企業ごとに異なる「目に見えない資産」を踏まえた上での変化でなければ、既存顧客や従業員との軋轢や断絶をもたらしかねません。
事業を拡大・発展させていくためにも、利益の追求だけでなく、ステークホルダーとの関係構築も含めた視点が、後継経営者には求められるでしょう。

事業承継における2つのケース

事業承継と一口でいっても、「会社」を引き継ぐ場合と、「事業」のみを引き継ぐ場合とでは、事情が少し異なります。
前者は企業の顔、いわばアイデンティティーまでも引き継ぐことになるため、ただ利益を追求するだけでなく、創業者の掲げたビジョンを果たしていくこともミッションの一つとなります。後継者として働くにはそれ相応の覚悟も必要となるでしょう。しかしその分、経営に関するあらゆることを一挙に担うことになるため、大きなやりがいが感じられるはずです。
他方で後者のように事業のみを引き継ぐ場合、たとえば新規開発されたWebサービスを買収するなどであれば、どちらかといえば投資としての面が強く、買収後も事業価値を高めることに重きを置くケースが多く見られます。こちらも事業の運営にあたって、経営者視点をもってPDCAサイクルを繰り返すことが求められるため、ビジネスパーソンとしての大きな成長が期待できるでしょう。

まとめ

「事業承継」は事業の価値が再発見される機会にもなっています。企業としての成熟期を終え、経営者やその親族から“見限られていた”事業が、他の人から見れば、まだまだ伸びしろのある優れた事業である、と再評価されることも珍しくありません。
後継者の不在に悩む多くの企業は、組織体制や業務全体を見直すことで、さらなる成長へ向かう「第二創業期」として生まれ変わる可能性を宿しているはずです。
事業を創るのではなく、継いで伸ばす。そうした考え方が、これからの起業志望者の有力な選択肢の1つになるのかもしれません。

この記事を書いた人

20代の働き方研究所 研究員 T.H

1991年5月生まれ。
大学卒業後、就職情報会社にクリエイターとして入社。以降、規模や業種を問わずさまざまな企業の採用サイトやパンフレットなどを制作。モットーは「ユーザー起点」。20代の働き方研究所では、記事執筆のほかコンテンツ制作も担当。休日の過ごし方は読書と古着屋巡り。 
#コンテンツディレクション #社会課題の可視化 #現代アート

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