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2021.08.18FOCUS

【渦中の人に聞く】廃業の危機を乗り越えV字回復へ。30年続く家業を守り育てる2代目社長の「動きながら考える」経営

20代の働き方研究所 研究員 R.W.


洋菓子のプルミエール2代目社長 遠山大樹さん

会社の経営を後継者に引き継ぐことを「事業承継」と言います。例えば、実家が家業を営んでいて、ゆくゆくは自分が後継ぎになるような場合、この「事業承継」にあてはまります。
▶事業承継について詳しく知りたい方はこちら:「後継者」というキャリア選択。起業志望者の間で注目を集める「事業承継」とは。

会社員として働くのか、家業を継ぐのか、全く新しい事業をおこすのか。様々な「働く」の選択肢がある中で、決断に悩んでいる方もいるかもしれません。今回は、20代のうちに家業である洋菓子店を継ぎ、二代目社長として約30名の従業員を抱える遠山さんに、経営者として「今」感じていること、事業承継の苦労など、赤裸々にお話しいただきました。


就活の軸は「家業を継ぐために必要なことを学ぶ」

―遠山さんは現在、洋菓子店「プルミエール」代表として活躍されていますが、まずはこれまでのご経歴と現在取り組まれていることをお伺いできますか?

洋菓子店プルミエールは、先代である両親の後を継ぎ、私で二代目です。プルミエールを継ぐまでは、まず大学卒業後に楽天株式会社に就職して、楽天市場で通販店舗を出店している企業のECコンサルティングをしていました。
4年ほど勤めた後、株式会社BAKEに転職、半年ほど経って実家の経営が傾きはじめ、それをきっかけに家業を継ぎました。





―最初はなぜ楽天に就職されたのでしょうか?


家族や親戚に会社員があまりいなかったということもあり、就活が始まる前から経営者になろう、家業を継ごうという思いは持っていました。そして、それまでに学んでおきたいことを考えたら「ネット通販の業界」だな、と。
実はネット通販がちょうど盛り上がり始めた15年前くらいに、プルミエールも一度ネット通販にチャレンジしたことがあったんです。でも当時は全くうまくいかなくて。それ以降は店頭販売のみで経営していました。
自分が家業を継いだらいよいよネット通販事業にも注力しなければと思っていたので、その業界で最初に思い浮かんだ楽天株式会社を選びました。ゆくゆくは家業を継ぐつもりであることも伝えた上で入社したので、心おきなく勉強させてもらいました。

楽天での働き方は、表現するとしたら「知的体育会系」という感じで、各出展店舗の社長と一緒に、まさに経営を疑似体験するようなイメージで働いていました。どうしたら売上拡大していくか思考をフル回転させながら、同時に手も動かして、「動きながら考える」ことが求められるので、まさに学びたいことをピンポイントで学べた良い経験でした。

その後、スイーツメーカーの株式会社BAKEに転職して、コンサルティング側ではなく事業者側として、現場がどのように回っていくのか、事業をどのように回していくのかを学ばせてもらいました。
家業を継ぐタイミングでもあったので、勤めていたのは半年ほどでしたが、さらに自分の中で事業や経営というものを「自分ごと」にできる良い経験だったと思っています。


廃業の危機。地道な足元固めとトライアンドエラーの日々

―実際に経営者になってみて、会社員時代との「違い」は感じますか?

それはもう、圧倒的に違いますね!
楽天はコンサル業なので、あくまで私ができることは提案まで。先方の社長の責任で実施要否を決断するし、成功も失敗も決まるのですが、実際に自分でそのような決断をしていく面白さと重責をまさに痛感しているところです。
経営者というと、自由で好きなことを形にできるイメージもあるのでないかと思います。実際それは間違っていないのですが、それと同じくらい背負わなければいけない責任も重いんです。

プルミエールは今でこそやっと安定して売上を伸ばし、従業員も4名から約30名を抱えられるまでになりましたが、家業を継いだ2年前は、実は廃業寸前の危機に瀕していました。これは事業を継ぐ形ならではの苦労かもしれないですが…。
当時は毎日毎日、「〇万円足りない!」「〇万円どうやって捻出しようか」と追いつめられる日々で、その中でも雇用している従業員の生活はこのお店を経営する自分の手にかかっているし、なんとかしないといけない。とにかく足元のキャッシュを作ることに全力を注ぐ、泥臭い日々もあったんです。
朝6時にはお店に出て、営業活動で各地を飛び回り、夜は2.3時まで…なんて日もしばらく続いていましたね。

―そのような危機からどのように経営を立て直したのでしょう?

楽天時代に学んだことを活かして、今まで店頭販売のみだった販路をそれ以外にも増やすように動きました。
例えば、通常の店頭販売で獲得できるのは個人宅のニーズですが、百貨店や企業のニーズもこの業界にはあります。その販路を掴む方法を次々頭で考えながら、飛び込みで企業に出向いたりたり、電話をひたすら掛けたり…。
そうやって地道に1年ほど足元固めをしてから、ネット通販にも着手していきました。最初は送り状100枚手書きで書いたり、システムも仕組みも整っていないようなスタートを切りましたけどね(笑)。 それでも、大企業が1か月でやることを、1~2週間で整えるスピード感で着手して、とにかく「動きながら考える」を実践していました。

こうやって背負う責任の大きさや地固めの大変さを伺っていると、新しくやりたいことがあってもトライアンドエラーしにくい印象を受けましたが、実際はいかがでしたか?

私は逆に、「トライアンドエラーするしかない」と思っています。会社の代表になってまだ2年ですが、その中でも状況は何度も、大きく変化しました。その変化に対応していくためにも、思いついた施策に挑戦しながら高速でPDCAを回すしかないと学んだんです。
ただ、絶対してはいけないミスのラインは押さえるようにしていました。例えば、この金額までだったら後々数か月で取り返せるけど、この金額はさすがにアウト、というイメージです。ミスをしてもリカバリーが効く範囲で、できることを片っ端から試していきました。

最初は売れる商品なんてほんの一握りで、20~30商品リリースしても、全く売れないこともありました。でもやり続けて、データをしっかり見て分析して、ひとつひとつの失敗も無駄にしないで積み上げていくと、あるときふと「これかもしれない」と感じるときが来るんです。普段からトライアンドエラーを繰り返して、そのチャンスの波に乗れるかどうか、乗るべき波か否かを判断する準備が出来ているかどうかで、ビジネスが大きく左右されるのではないでしょうか。

精度の高い経営判断に必要なものは、「好き」の熱量

―経営者もサラリーマンも経験してこられた遠山さんから見て、「経営者に向いている人」とはどのような人だと思われますか?

経営者の役割として一番特徴的だと思ったのが、とにかく毎日何かしらの意思決定(取捨選択)をすることでした。
自分が決めないと進まない。でも決めたことは100%自分が責任を持たなければならない。何を捨てて、何を選ぶか…という選択が毎日出てくるので、やるべきことを見極める力と、やると決めたらやる行動力、そういったスリルある状況が楽しめる力がないと、しんどい思いをしたときに心が折れてしまうような気がします。

ただそうは言っても、私自身も実際に事業を動かしながらこの勘所を身に付けたところが大きいので、最初からできるものではないと思います。
こういう勘所が身につくまで、好きなことややりたいことに対してストイックに取り組み続けられるかどうかと、提供するモノやサービスに対する「好き」の熱量や自信のほうが大事かもしれないです。

事業を継いでから一番経営が厳しかったとき、たしかに金銭的に追い詰められていくしんどさはあったんですが、売り方さえ分かれば絶対いける!という自信はずっとあったんです。それは根拠なき自信というわけではなくて、お菓子やお菓子作りが好きだからこそ、他店の様々なお菓子を食べて、自分のお店のお菓子がどこまで行けるか客観的に把握していたからこそ持てた自信でした。自信を持てる味を守ってきてくれた両親に感謝ですね。
この自信や熱量があるから頑張り続けられたし、それが結果として取捨選択の勘所を育てて、経営を安定させることに繋がったのかなと思います。

ただ、逆に経営者目線でありすぎると、現場との目線のズレが生じてしまうこともあるので、そこに溝ができないように努めているところでもあります。


―現場とのズレを感じたとき、実際どう対処されているのでしょうか?


とにかく対話することですね。もっといい方法がないかは常に考えていますが、今はとにかく現場の人としっかり話すことを意識しています。
あとは逆に、敢えて現場を離れてみる時間も取っています。ずっと現場に立ちながら社長業をしていたのですが、いざ離れてみると現場だけで問題なく動いてもらえることにも気付けました。
最近はワーケーションをしていて、八ヶ岳で仕事してみたりしています。私の場合、ネット環境さえあれば仕事になるのでワーケーションでも特に不便はないですね。環境を変えると冷静になれたり、見えるものが変わるので、最近は現場3:ワーケーション1くらいの割合で働いていますね。

現場と経営者の感覚がズレる、つまり現場に負荷がかかっていたり不満がたまっていると、鋭いお客様には気付かれてしまうんですよね。それがたとえ顔の見えないネット通販であっても。

ネット通販事業が軌道に乗り出したころ、ちょうどバレンタインデー・ホワイトデーの時期とも重なって、まだ従業員が少ない中で売上が急に伸びたときがあったんです。当時は伸びていく需要に出荷を追いつかせることに必死で、現場の苦労だったり、お客様の手に届く商品の質にまで気が回っていなかったんですが、ある日お客様からのレビューを見ていたら、ちょっとした味の変化や梱包、保存方法についてとても細かくご指摘を頂いて…。作り手が笑顔でない限りは多くの人を笑顔にすることはできないんだと身をもって感じた瞬間でした。
そこからは現場に負荷がかからない範囲の受注管理を徹底したり、積極的にコミュニケーションをとったり、逆に客観的にお店を俯瞰する時間をとったり、という風にしています。




―最後に、今後取り組みたいことを教えてください。

拠点を八ヶ岳に作りたいですね!実店舗でなく、製造拠点やオフィスを作りたいです。そうやって拠点が少しずつ広がってきたら、それらを自分以外の人に任せるフェーズに移って、私はさらに次の「新しいこと」を創りたいと思っています。
やりたいことは沢山あって、今自分が思ってるやりたいことのうち15%位しか達成できていないんです。でも、やりたいことが無くなることの方が怖いし、新しいことを始めて成功させることが今の自分の存在意義だと感じているので、これからもトライする姿勢を忘れずに、新しいプルミエールをお見せできるよう頑張ります。
 


プルミエール2代目社長 遠山大樹さん
大学卒業後、楽天株式会社に入社しECコンサルティングの知見を深める。株式会社BAKEに転職したのち、約30年続く家業の洋菓子店「プルミエール」の経営を承継。店頭販売のみだった販路を拡大し、ネット通販事業に着手。売上を大きく拡大して、従業員4名⇒約30名に成長した会社の2代目社長を務める。

この記事を書いた人

20代の働き方研究所 研究員 R.W.

1994年1月生まれ。
新卒でインターネット広告代理店に入社。企業向けのWeb集客コンサルティングに携わった後、事業会社でのマーケティングに興味を持ち、第二新卒枠で転職。現在はWebサイトの企画・運用・集客・分析を担う。自身の早期離職の経験から、20代で形成されるキャリアや仕事観に興味を持ち、20代の働き方研究所にジョイン。好きなものは、気持ちのいい伏線回収が待っているドラマ・映画。 
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