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2021.11.17INTERVIEW

はじめにビジョンありき——革新を続ける中川政七商店の“らしさ”を体現する働き方とは

20代の働き方研究所 研究員 T.H
中川政七商店 奈良本店 副店長 佐藤 史絵波(さとう しえな)様 (写真右)
販売部 小売課 教育・採用担当 萩原 由起子(はぎわら ゆきこ)様 (写真左)


「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げ、工芸技術を使った生活雑貨を扱う中川政七商店。業界初となるSPA(製造小売)の確立、職人や工芸メーカーへのコンサルティング事業などでも知られる同社は、工芸品との出会いを生み出す場としての店舗づくりやそこで働く人材の育成・採用にも力を入れています。
「工芸のある暮らし」を提案する上で欠かせない、組織の“らしさ”を体現する働き方とは。奈良本店で副店長を務める佐藤さんと教育・採用担当を務める萩原さんにお話を伺いました。

 

伝えることを、もっと「自分ごと」にしたい。

—佐藤さんは2017年に新卒で入社されたとのことですが、なぜ中川政七商店を選ばれたのでしょうか

(佐藤)理由は大きく分けて二つあります。まずは美術大学でプロダクトデザインを専攻しており、モノづくりに対して興味があったこと。そしてもう一つは、実家が呉服屋を営んでいることです。

日本独自の文化が失われつつある状況を身近に感じられていたことから、なくなってほしくない文化の魅力をどうにかして支えられないか、と思っていたときに出会ったのが当社でした。「商品が好き」という理由で入って来られる方も多いのですが、私は特にビジョンに惹かれましたね。


—会社のビジョンとして「日本の工芸を元気にする!」を掲げられてらっしゃいますね

(佐藤)学生時代に学んだ知識を活かしつつ、文化の継承にも携われる場所という軸で企業を見ていましたが、当社はまさにその両方に合致していました。
商品を作るだけじゃなく、目の前のお客様にいかに届けるか、そしてその先の未来へいかに残していくかなど、幅広い視点で工芸に携われることに魅力を感じ、入社を決めました。


—そしていまは奈良本店の副店長というポジションで働かれています。それまではどのような働き方をされていたのでしょう

(佐藤)入社後は東京の店舗に配属され、商品知識や接客を学んだ後、神奈川の店舗で2年ほど店長として働いていました。その後、21年4月の当社初の複合商業施設「鹿猿狐ビルヂング」のオープンとともに、奈良本店に来たという流れですね。

奈良本店では店舗の面積や扱っている商品数もこれまでの店舗とは大きく異なります。スタッフの人員も4,5名のところから、現在は16名と当社としては大所帯の店舗になりました。かなり大きなお店を任せていただいているので、その分やりがいも感じられています。

(萩原)中川政七商店では大型の旗艦店として、奈良本店と渋谷店の二店舗を構えています。副店長はその二つだけに設けられている希少なポジションでもあります。


—二大旗艦店のうちの一つで副店長という重要なポジションを務められているのですね。奈良本店には「立候補」されて来たと伺いましたが、どのような想いがあったのでしょう

(佐藤)店長として働くうちに、自分はつくづく、お客様やスタッフへさまざまなことを「伝える」のが好きなんだなと気付いたんです。
奈良本店は、中川政七商店の取り組みを伝えるためのいわば本拠地。自分が伝え、残していきたいものに、もっとダイレクトに関わることができる場所なんじゃないかと直感しました。
奈良本店の副店長というポジションを社内で公募されたときは、私もその一員になりたい、伝える仕事をもっと「自分ごと」にしたいという気持ちに突き動かされて手を上げましたね。


—まさにその想いを実践されているところだと思いますが、実際に働いてみて他店舗との違いも実感されたのでは?


(佐藤)もっとも大きいのは、やはりお客様層の違いですね。これまで経験してきた駅前の商業施設内の店舗は、主に近隣にお住まいの方々にご利用いただいていたので、観光で訪れるお客様が多い奈良本店は、とても新鮮に感じられています。またありがたいことに、このごろは店舗そのものも観光スポットの一つになってきているようです。

当社も、その土地ゆかりのものづくりや製造現場を観光資源とする「産業観光」の推進を掲げているだけに、今の状況は非常にうれしいですね。その分、私たちも商品の魅力だけではなく、奈良という場所や、そこで産声を上げた中川政七商店の価値観も含めて伝える意義があるのだと思っています。そこが今までの働き方との一番の違いであり、やりがいになっているところでもあります。


—接客では「接心好感」という方針を大事にされているそうですね。これはどういったものなのでしょうか

(佐藤)「接心好感」は、お客様の心に触れ、好きになってもらうという意味をもつ言葉です。
当社の商品は、機能性や使いやすさだけではなく、それを生活に取り入れることで得られる「豊かさ」にこそ魅力があると考えています。なので、商品の実用性をアピールするだけでなく、その商品を使った「新たな生活」まで提案するように心掛けています。

お客様の求める生活を知るには、会話を通じて心に触れるような関係性が欠かせません。だからこそ、お客様一人ひとりに向き合う姿勢を大事にしています。

なかには購入いただいた商品を使っている様子を写真に撮って、後日うれしそうに見せてくださる方もいて。お客様に信頼いただけたという喜びはもちろんですが、そうやって私を介して商品とお客様とのつながりが生まれていくことが、とてもうれしいですね。


お店を背負った「看板娘」「看板息子」として。

—商品だけでなく、場所や社員の皆さんが作り出す空気感、お客様とのコミュニケーションのあり方、その全てで唯一無二のブランドが形成されているのですね

(佐藤)ブランドというのはすなわち、私たち“らしさ”であると言えると思います。そうした“らしさ”を伝えるための工夫は日々心掛けていますね。
例えば、私を含めたスタッフはみんな、店頭に立つときに、自分たちをお店の「看板娘」「看板息子」だと思うようにしていまして(笑)。

お客様に好きになってもらうには、マニュアル通りの画一的な存在ではなく、むしろその人の「人格」が伝わることが大事なんじゃないかと思うんです。各自の個性を出しながらも、「看板娘」「看板息子」という人物像を深めていくことで、中川政七商店“らしさ”を感じていただけたらなと。


—目指すべき指標として「人」に焦点を当てているのは面白いですね。「娘」「息子」というワードからは家族的な親しみも感じられます

(萩原)私たちは現在、全国で60店舗を展開していますが、その規模を運営しているとは思えないほど、組織全体での「近さ」があると感じています。そうした家族的な距離感も私たちの強みになっているのかもしれませんね。

出店先の多くは、駅ビルなどを中心とした多くの人が行き交う場所。だからこそお客様に対しても、よりいっそう居心地の良さを感じてもらえるような距離感で接することを心掛けています。
 

この遠回りこそが、成長のための最短距離。

—そうしたユニークなカルチャーが生まれる根源には何があるのでしょうか

(萩原)当社では何をする場合でも、その根底には必ずビジョンがあります。ただ、「日本の工芸を元気にする!」という、そのビジョンの達成は簡単ではありません。社員一人ひとりがその意識をもち、足並みをそろえることではじめて目指せるものです。

そこで私たちは、「こころば」という社員皆が共通してもつべき心構えを定めています。私たちの目指すべき心のあり方を10ゕ条にまとめており、記されたカードも常に持つようにしています。

いつも正しくあろうとすること、日本のモノづくりに対して誇りを持つこと、そしてそれを使ってくれるお客様に対して誠実であろうとすること。こうした当社で求められる心構えを言語化し、行動の指針にすることで、目の前の仕事とビジョンの達成が結びついているということを意識できるようにしています。

もちろん企業としては利益を上げ、成長していくことも大事。しかし重要なのは、その「仕方」なのだと思います。単に売上を追求するのではなく、ビジョンの達成を通じて結果を残していく。そうやって成長していくことにこそ意義があるのだと考えています。

また、この「こころば」は採用の基準にもなっています。面談などでお話しする際は、経験やスキル以上に、私たちの考え方に共感いただけそうかを大切にしていますね。

 

—採用の場面でもカルチャーフィットを重視されているのですね。そうした方が入社後活躍できるように何か心掛けてらっしゃることはありますか

(萩原)こちらから細かく指示をするようなことは、実はあまりしないんです。こちらの要望ばかりを押しつけるのではなく、もともと持っていた想いをいかに伸ばしていけるかに注力しています。

新しく店舗ができるときや、新しいプロジェクトが立ち上がるときは、全社員に向けて挑戦の機会をつくるようにしていますし、佐藤さんが異動するきっかけになった社内公募制度はその好例ですね。

会社として重要な場面だからこそ、責任あるポジションは、経営側の一存で決めるのではなく、意欲の高い方に任せたい。もともと社員の自主性を大事にする風土が根付いていることもあり、各自の「やりたい」という意欲を尊重するようにしています。

初めからなんでも与えるのではなく、あくまで自発的に動いてもらえるきっかけだけを与える。そして、そこから何を拾い上げるかは当人に任せてしまう—— 結果だけを追求する立場からするとおそらく遠回りだと思います。ただ、ビジョンを達成するためには、一人ひとりの自律的な働きが欠かせません。私たちにとってはこうした遠回りこそが、成長への最短距離なのではないかと思っています。


—最後にお二人自身の「ビジョン」を教えてください

(佐藤)私たちがいなければ、いずれ無くなってしまうかもしれない。そうした工芸に対する想いを原動力にして、その魅力を次代へ伝えるのが、私たちの存在意義だと思っています。
奈良本店のある鹿猿狐ビルヂングの歴史は始まったばかり。施設内には、中川政七商店の歴史をアーカイブしたギャラリーや、昔ながらの機織りが体験できるスペースもあり、いろんな角度から工芸に触れることができます。
これからも奈良を起点にして、商品だけじゃなく工芸そのものに興味を持ってもらうために力を尽くしていきたいですね。

(萩原)興味を持ってもらうためには、たとえば見た目や品質以外に、それがいつ、どこで生まれて、誰がどんな思いで作っているか、そしてそれを使うとどのような暮らしができるのかといった「ストーリー」を届けることが重要です。
「こころば」の中には「学び続けること」というのがありますが、工芸の世界は奥が深く、仮に私たちの扱う商品だけをとってみても、その特性をすべて把握するのは容易ではありません。しかし、そうした工芸の世界をとことん学んでみたいと思える意欲的な方とは、ぜひ一緒に働きたいですし、ともに成長していけたらなと思います。

株式会社中川政七商店
1716年奈良で創業。300年の歴史を持つ老舗ならではの温故知新の想いを根底に、日本の工芸をベースにしたものづくりを実践する。「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、工芸業界で初めてのSPA(製造小売)業態を確立。業界特化型の経営コンサルティング事業を手掛けるとともに、「産業観光」による工芸産地の活性化に取り組む。日本の工芸業界を支える企業として注目を集めている。

この記事を書いた人

20代の働き方研究所 研究員 T.H

1991年5月生まれ。
大学卒業後、就職情報会社にクリエイターとして入社。以降、規模や業種を問わずさまざまな企業の採用サイトやパンフレットなどを制作。モットーは「ユーザー起点」。20代の働き方研究所では、記事執筆のほかコンテンツ制作も担当。休日の過ごし方は読書と古着屋巡り。 
#コンテンツディレクション #社会課題の可視化 #現代アート

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