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2021.11.05INTERVIEW

「体験」重視のモノづくりを実践する平安伸銅工業のビジョンから、「個別化」時代に必要なアプローチを探る

20代の働き方研究所 研究員 T.H
平安伸銅工業株式会社
開発グループ 商品開発チーム  鈴木 将太(すずき しょうた)様 (写真右)
管理グループ 人事チーム  小島 括俊(こじま かつとし)様 (写真左)

「突っ張り棒」や「突っ張り棚」のシェアでトップを走る平安伸銅工業株式会社。近年では、安全で手軽にDIYを行える「LABRICO(ラブリコ)」やスタイリッシュなデザインが映える「DRAW A LINE(ドロー ア ライン)」といった新ブランドにも大きな注目が集まる同社。プロダクトにおけるこだわりとユーザビリティとの共鳴について、そして今日の飛躍の源泉となっている同社のビジョンと働き方との関わりについて、お話を伺いました。

 

ユーザーが身近に感じられるという新鮮さ。

—鈴木さんは平安伸銅工業に中途でご入社されたと伺いました。それ以前はどのような仕事をされていたのでしょう

(鈴木)もともとはBtoBのメーカーで開発業務を担当していました。その後、住宅の建設現場で、職人 に近い立場で一年半ほど働きました。そこで、住宅が作られる現場を見るうち、住宅や内装など、人々の暮らしに寄り添える身近なプロダクトを開発したいと思うようになりました。当社の存在を知ったのも、ちょうどそんなときでしたね。

当社は「突っ張り棒」に代表される定番商品を扱う老舗メーカーとして歴史やノウハウがある一方で、「LABRICO」や「DRAW A LINE」といった商品ブランドを生み出し、新たな市場へも挑戦しています。開発職として今後働いていく上で、歴史に裏付けられた知識を吸収できること、そして新たなことにどんどん挑戦していけるのではないかという期待から入社を決めました。


—経験を重ねる中でやりたいことが明確になっていったのですね。これまでの会社との違いも感じられたのではないでしょうか

(鈴木)一社目で設計・開発していたのが、店舗用の大型什器だったこともあり、ユーザーからの反応を知る機会はありませんでした。しかし当社はユーザー=生活者なので、オンラインショップのレビューやSNSなどを通じて反応を知ることができます。そこは入社して非常に新鮮でしたし、大きな違いでもありましたね。

当社の商品であるDIYパーツはその多くが単体で使用するものではなく、既製品と組み合わせて生活空間を作るもの。そのままでは完成しない、いわば「半完成品」のような商品です。その分、工夫しだいでさまざまな使い方ができる可能性も秘めています。実際にユーザーの方の斬新な組み合わせなどを見て、「そんな使い方もあるのか」と刺激を受けることも少なくないですね。

DIYの「始めやすさ」をつくる。

—入社後はどのようなプロジェクトに携わっておられるのでしょうか

(鈴木)入社して1年ほどだった時期、賃貸でも気にせずDIYが楽しめる 「2×4アジャスター」というパーツの売れ行きが非常に好調だったんです。そこで「ほかの材料を使って新たなDIYのプロダクトを作れないか」という、けっこうざっくりとしたお題が持ちかけられて(笑)。そこから、同時にアサインされていた企画担当者と一緒に、「重厚感のある2×4アジャスターより、もう少し軽やかなイメージのパーツ」といったテーマを設け、開発を進めていきました。
それは最終的に「丸棒Φ30シリーズ」という形になりましたが、当初のイメージとしてあったのは、それくらいアバウトなものでしたね。

—まさに入社前に描いていた「身近なプロダクト」を生み出す経験といえそうです

(鈴木)そうですね。
製品として形になるまでには、何度も試作を重ねていきます。そして多くの場合、そこで設計時には分からなかった課題にぶち当たります。試作を作るたびに課題を洗い出し、改善していく。それを繰り返すごとに製品としての完成度はどんどん上がっていきます。
物がどんどん製品に近づいていく、そのプロセスに携わるのは大変な分、大きなやりがいも感じられました。

—ゼロから生み出すということは、苦労もあったのではないでしょうか

(鈴木)たくさんありましたね(笑)。
DIYパーツは、ユーザーごとに完成品の仕上がりが異なります。そのため、完成品がどのような扱われ方をするのか、パーツと木材の組み合わせやバリエーションの幅をもたせて設計をするのかなど、検討内容によって具体的な形を決めなくてはなりません。丸棒シリーズは、それらの仕様をゼロから決めていく必要がありました。これは、LABRICOというDIYパーツならではの苦労でしたね。
ほかにも、木材と組み合わせやすいようガイド用の刻印を設けるなどの「使いやすさ」にもこだわっていました。さらに利用シーンを考えると、DIYパーツは一個ずつバラ売りにするよりも、複数個をまとめた方がユーザーにとっては使い勝手が良いのではないかなど、かなり具体的な仕様についても試行錯誤しながら商品化を進めました。そこは実際の開発作業以上に大変な部分だったかもしれません。

 

—商品としては小さなパーツですが、そこには実にいろんな配慮が詰まっているのですね

(鈴木)私たちは、商品が「使いやすいものであるか」というミクロな視点から、「コンセプトを体現しているか」といったマクロな視点まで、複数の見方を踏まえてモノづくりをしています。

その視点は、ときに販売方法にまで向ける場合もあります。それは作って終わりではなく、ユーザーに手に取って使ってもらうことをゴールにしているからです。開発担当者が、そこまで商品に責任が持てるというのは、当社の特徴といえるかもしれませんね。

プロダクトは、ユーザーの手元で初めて完成する。

—鈴木さんが商品開発をする上で心掛けてらっしゃることはありますか?

(鈴木)自分らしい暮らしを彩る理想の商品は、ユーザーの手元で初めて完成する、そしてその理想を安全かつ簡単に実現させるために「LABRICO」がある。そうした設計思想が元にあるので、主張が強すぎるプロダクトではなく、凝りすぎていない、シンプルなものが理想かなと思っていますね。

個人的にもほかと差別化するために派手な装飾を施すとか、そういった打ち出しはあまり好きではなくて。ユーザーを問わずどんな暮らしにもなじんでいくような物が、私自身が理想とするプロダクト像でもありますし、「LABRICO」のコンセプトとも共鳴しているように思います。


—そうしたシンプルさや完成をユーザーにゆだねる設計思想こそが、他社にはない強みになっているともいえそうです

(鈴木)
たしかにそうかもしれませんね。ユーザーが工夫できる余地、「余白」をあえてはっきりと残しておく。そのことは商品を作る上で強く意識しています。

「LABRICO」というブランドでは、プロダクトだけではなく、DIYのノウハウや情報をまとめた自社メディア「DIYガイドブック」というコンテンツや、DIYをテーマにユーザー同士がつながり合えるコミュニティづくりにも力を入れています。

「違い」に寄り添うアイテムとしての再出発。

—老舗メーカーともいえる平安伸銅が、そうした体験提供型の展開を始めるきっかけはなんだったのでしょうか

(小島)転機になったのは、やはり現社長である竹内の就任ですかね。就任時にはまだ「LABRICO」や「DRAW A LINE」といった商品ブランドはなく、主力商品は既存の「突っ張り棒」だけ。それも市場全体がコモディティ化する中で機能的価値のみ訴求していました。

この状況を打破するためにも、ユーザーの暮らしに寄り添う体験を提供する商品を生み出す必要がありました。そこで新たに開発をされたのが、商品の機能的な側面のみならず、情緒的な価値にも重きを置いたブランド「LABRICO」であり、「DRAW A LINE」なんです。

人によって、求める暮らしは当然異なります。当社の商品はシンプルな作りだからこそ、個人によって異なるニーズに寄り添いながら、それぞれが思い描く暮らしの実現をサポートできると考えています。その「違い」の事例集ともいえる製品のユニークな使い方を、SNSや「DIYガイドブック」の中でコラムとして積極的に紹介することで、機能面だけではない商品の価値を知ってもらえるよう工夫しています。専門のセクションである「ワクワク制作グループ」というチームを中心に、ブランディングやユーザーとのコミュニティづくりにもかなり力を入れていますね。 

—「つっぱり棒博士」としても知られる竹内社長も積極的にメディアを活用して商品の魅力を発信されています。そうした姿勢は社内でも大事にされているのでしょうか

(小島)やはり商品が完成品ではないということもあり、商品の「先にある体験」をいかに見せるかは大事にしています。

また、おっしゃる通り、私たちのトップが実践していることもあってか、社内でも自分なりの使い方を紹介し合ったり、ユーザーの事例をチェックして共有したりと、新たな気づきや発見に目を向けようとする風土は根付いていると思います。それはここ最近になって、より強くなってきた印象ですね。

 

—そうした変化は社内での働き方に影響しているところもあるのでしょうか

(小島)そうですね。当社が掲げるビジョン、「アイデアと技術で、『私らしい暮らし』を世界に。」にも含まれている「私らしい暮らし」 というキーワードは、当社がもっとも大事にしているコンセプトとしてあります。

鈴木であれば開発業務を通じて、私であればバックオフィス業務を通じて、それぞれの「私らしい暮らし」を実践し、価値として届けようとすることで、結果的にユーザーの「私らしい暮らし」を考えることができる。そうした意識は社内でも共通理解としてありますね。社員一人ひとりが「私らしい暮らし」について向き合い、その実現のためにすべきことは何か、常に考えるようにしています。

もちろん会社で過ごす時間や空間も「暮らし」のシーンの一つ。ビジョンにもとづき、自分たちの働き方にも向き合うことで、目的に向かって自由に意見が言い合える環境もできつつあると感じています。

新たに掲げたビジョンから、企業としてあるべき姿が見えてきた。

—これまでのイメージがある中で、新たなビジョンを掲げるのは企業として大きな挑戦だったと思います

(小島)そもそもこうしたビジョンやバリューが整備されたのは2018年、竹内が代表に就任して3年ほど経過したタイミングでした。就任後はしばらく、思ったようにメンバーとの意思疎通が取れないなど 、組織運営の難しさに直面した時期もありました。

そこからは、経営側からの発信に留まらず、メンバー間でビジョンやバリューの解像度をあげるプロジェクトを始動させるなど、平安伸銅で働く意義を問い直すような取り組みをいくつか行ってきました。その結果、これまでどうしてもトップに頼ってしまっていた意思決定が少しずつ変わり始め、「当事者意識」が根付き始めているのを感じます。

企業としてのビジョンやバリューの策定を通じて、商品がリブランディングされていきました。このような取り組みに共感して平安伸銅で働きたいと言ってくれる方も、少しずつですが増えてきています。

—ビジョンにもとづいて、あるべき商品も、環境も、そして人材像も見えてきたのですね。その求める人材像とはどんなものなのでしょう

(小島)大きく3つあります。
まず1つ目は「暮らしに興味があるか」ということ。私たちの存在価値は「暮らし」を提供することにあります。なので、その人自身が「私らしい暮らし」を考え、自分なりに実践しているということは何より大事ですね。

2つ目は「違いを尊重できるか」ということです。当社は、自分と他者の違いを認めながら働くことを大事にしています。当社はスタートアップではないので、ベテランもいますし、まったく別の業界から来た方もいれば、新卒で入社したメンバーもいます。そうした「違い」を抱えていることこそ、当社の魅力であり、組織としての強みだと考えています。

そして3つ目は「当事者意識を持っているか」です。年次や役職を問わず、手を挙げればどんどんチャレンジでき、前向きな失敗を許容する風土があるので、意志とスキル次第でどんな人にもチャンスが与えられます。

こういった姿勢を大事にできる方であれば、きっと楽しみながら、社内外で「私らしい暮らし」を生み出していけるはずです。

平安伸銅工業株式会社
1952年創業、「突っ張り棒」「突っ張り棚」をはじめ、収納用品を中心に開発・製造を行うメーカー。特に「突っ張り棒」は業界トップシェアを誇り続けている。近年は、安全で手軽なDIYブランド「LABRICO(ラブリコ)」や、一本の線から新しいライフスタイルを提案する「DRAW A LINE(ドロー ア ライン)」といった新たな商品ブランドも展開。創業時の理念を受け継ぎながら、新たに「私らしい暮らし」を世界に届けることをビジョンとして掲げる。
 

この記事を書いた人

20代の働き方研究所 研究員 T.H

1991年5月生まれ。
大学卒業後、就職情報会社にクリエイターとして入社。以降、規模や業種を問わずさまざまな企業の採用サイトやパンフレットなどを制作。モットーは「ユーザー起点」。20代の働き方研究所では、記事執筆のほかコンテンツ制作も担当。休日の過ごし方は読書と古着屋巡り。 
#コンテンツディレクション #社会課題の可視化 #現代アート

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