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2022.03.30INTERVIEW

アサヒ飲料ラベルレスボトルの製造から探る、「環境配慮×顧客志向」の新たな商品価値の作り方

20代の働き方研究所 研究員 T.H
アサヒ飲料株式会社 富士山工場製造部
辻谷 昌徳(つじたに まさのり)様


SDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))に向け、企業として積極的な取り組みをすることが社会的な責務となりつつあります。今回はアサヒ飲料株式会社の富士山工場製造部で品質保証・生産技術開発などを担当されている辻谷さんにお話を伺いました。2018年、環境配慮型の商品として、ラベルの巻かれていないペットボトル「ラベルレスボトル」を業界に先駆けて開発。今や飲料メーカー各社から発売されているペットボトル飲料の新たなスタンダードはどのように生まれたのか。そして製造の現場で実践されている環境負荷低減への取り組みとは——

 

ロングセラー商品をより多くの人に届けたい

― アサヒ飲料に入社される前は大学院で農学の研究をされていたと伺いました。具体的にはどのようなことを専門的に学ばれていたのでしょうか

主には作物の肥料について研究していました。簡単にいうと、産業廃棄物を稲栽培などの肥料として活用するための研究です。植物を対象にして、どのような肥料を与えると、どういった栄養になるのかといったようなことを研究テーマにしていました。
もともと幼いころより科学、特に生物科目に興味があったこと、さらに畑を持っていた親戚から季節の野菜などを送ってもらったりしていたことから、植物の生育に興味があったため、大学進学を機に作物や食糧生産について本格的に学んでみたいと考えました。



― そこからアサヒ飲料株式会社へ入社されるわけですが、なぜ飲料メーカーを志望されたのでしょうか

研究内容からもわかる通り、もともとは食料品に興味がありました。しかし飲料は通常、料理とは違って、家庭で簡単に作り出せるものではありません。また、原料となっている水は生物が生きる上でなくてはならない根源的な要素でもあります。そうした生き物に欠かせないものとしての飲料に興味を抱くようになりました。
その中でアサヒ飲料は「三ツ矢サイダー」や「ウィルキンソン」、2012年には「カルピス
」も商品ラインナップに加わり、幅広い年齢層に寄り添ったロングセラー商品があります。特定のターゲットに限定せず、いろんな世代に対してどのようにアプローチしているのかを学びながら働けるのは楽しそうだと思い、入社を決めました。

― では現在、実際にはどんなお仕事をされているのでしょうか


当社の主要商品の一つである「アサヒ 十六茶」などを製造する富士山工場に勤務し、生産や品質の管理に携わっています。具体的には、研究所で考案された新商品のレシピが生産現場で問題なく再現できるかという生産適正の確認などを行っています。製品の品質はもちろんのこと、大量に生産する必要があるため効率性も求められます。常に生産現場でどのような課題があるのか目を光らせつつ、課題の改善に向けて新たな技術を開発することなどが主な業務です

― そこで感じられるやりがいとはどのようなものでしょうか

自分の提案によって、生産の効率化が実践されたときは大きな喜びがあります。一度の施策によって何千本という単位の増産につながるなど、ダイナミックな施策効果を感じることができます。ハードルが高いとされてきた課題を克服し、生産量の増加に貢献できることが自分にとっては大きなやりがいになっています。その結果として、アサヒ飲料の商品をより多くの方々にお届けすることにつながっているのはうれしい限りですね。


「地球と人にやさしい商品」としてのラベルレスボトル

― なるほど。ところで近年、ペットボトル本体にラベルが貼られていない「ラベルレスボトル」が多くの注目を集めています。アサヒ飲料は業界に先駆けてラベルレスボトルを発売していますが、商品が生み出された経緯はどういったものだったのでしょうか

世界的に環境負荷の低減に関心が高まる中で、当社でも商品のプラスチック使用量が見直されていました。ただ当初は、ペットボトル容器に使用されていたPET樹脂の使用量を削減することに苦心していたようです。
その一方で、ECサイトを通じてペットボトルをケース単位でまとめ買いするお客様からは、ラベルを剥がす手間を惜しむ声も上がっていました。そんな中、社員の一人が「容器ではなく、ラベルの方を減らすことができないか」と考えたことがきっかけとなって、ラベルレスボトルが生まれた、という経緯があります。
つまり商品開発の段階で、すでにラベルレスボトルは環境負荷の低減と家事の手間を省くユーザビリティを両立した「地球と人にやさしい商品」という新たな価値を備えた商品でもありました。

その後、2018年には業界に先駆けたECチャネル専用商品として「アサヒ おいしい水」ラベルレスボトルをテスト発売。新規性のある商品を求めていた大手ECサイトの賛同を得て、開発・販売をスタートさせました。


― ラベルレスボトル誕生の背景に環境配慮の視点だけでなく、消費者の視点もあったというのは意外です。ちなみに従来のラベルのある製品に比べ、ラベルレスボトルの製造はやはり難しいのでしょうか

ラベルレスボトルは普通のラベルではなく、「栄養成分表示」などが書かれたタックシールをボトルに貼り付けています。1分間に1,000本を作る生産スピードの中で確実にシールを貼るのは、技術的な難易度が非常に高く、ラベルレスボトルの製造は挑戦の連続でもあります。
2021年には「アサヒ おいしい水 天然水 シンプルecoラベル」という商品がグッドデザイン賞に選出されましたが、そこで使用されたシールは若干大きかったため、そのラベルをボトルに対し適正な位置と状態で貼り付けするといった課題にも直面しました。
そうした貼り付け時の変動を未然に防ぐことはもちろん、万が一そうした変動が生じても製造場内で検出し、制御するための仕組みをどのように確立するか、日々試行錯誤を繰り返しています。


― ラベルレスボトルはデザインや使いやすさといった目に見える違いはもちろん、どのように生産し、流通させるかという仕組みも異なるのですね

はい。「アサヒ おいしい水 天然水 シンプルecoラベル」については、シールを製造されているメーカーの方とシールの貼付方法について議論を重ねながら、もっとも有効な製造体制を模索していきました。



「アサヒ おいしい水 天然水 シンプルecoラベル」


容器だけではなく、中身も含めた製造工程全体で環境へ配慮した取り組みを実践

― 辻谷さんがラベルレス商品を製造する際に気をつけていることを教えてください

製品を作る際には当然、原材料が必要になります。さらに、製造工程ではあらゆるエネルギーが使われます。そのため環境に配慮した製品を作る際には、製品そのものだけではなく、製造工程で使われる資材やエネルギーをいかに節約し、かつ効率よく作れるかを意識するようにしています。
私個人としてだけでなく、会社全体としても原材料から出荷までの全工程において、廃棄物の発生抑制に努めていますし、不良品を一本でも減らしたり、同じ量の資材から一本でも多くのペットボトルを作るためにはどうすれば良いか、常に模索するようにしていますね。


― 実際の製品だけでなくて、その製造工程も含めて環境負荷の低減を考えることが重要なのですね

そうですね。そのほか当社では、廃棄物の再資源化にも努めています。例えば、富士山工場では「アサヒ 十六茶」を製造しているのですが、お茶を抽出した後には茶粕(ちゃかす)が出ます。通常は産業廃棄物として業者に引き取っていただくのですが、当工場では乳牛用の混合飼料として飼料会社へ提供しています。ただ捨てるのではなく、飼料として提供するという取り組みを通じて、循環型社会の実現にも貢献しています。

― 一方、容器について気になるのが、ラベルレスにすることによる見た目の変化です。華やかなパッケージは購買意欲を喚起させるためにありますが、それを取り除いたことで売り上げに影響などはないのでしょうか

ラベルを剝がしてしまうことで味気ない見た目になってしまうのは、たしかに課題ともいえます。ただそうした課題に対して、先ほどの「アサヒ おいしい水 天然水 シンプルecoラベル」では、ボトルの表面を加工することで、容器の下部に水の波紋と伝統工芸の江戸切子の文様がかけ合わさった緻密なデザインを再現しています。
また、2021年には「アサヒ 十六茶」のダイレクトマーキングボトルという完全ラベルレス商品も製造しました。レーザーマーキング技術によって商品の原材料などを直接印字した商品なのですが、これは食品業界で初の試みでもありました。
今後ラベルレスボトルでは、こうした新技術を取り入れることによって、ラベルレスだからこその新たなデザインが追求されていくのではないか思います。


「アサヒ 十六茶」PET630mlダイレクトマーキングボトル


― なるほど。現在、ラベルレス製品はECチャネルでの展開がメインですが、そうした優れたデザインが普及し、環境への配慮が購買動機としてより優先されるようになれば、リアル店舗においても新たなスタンダードになるかもしれませんね


そうですね。ただ、完全ラベルレス商品を店舗に並べる際には、ボトル一本一本に必要情報を記載する必要がありますし、バーコード部分の加工技術などにもまだまだ課題が残ります。そのためラベルレスの主流な販売経路としては、現状ECがメインとなっています。しかし少なくともラベル部分を最小限にした「シンプルecoラベル」は、2022年をめどにスーバーやドラッグストアなど店頭での販路拡大にもチャレンジしていきます。また、そうした需要拡大に合わせて、東日本エリアの富士山工場だけではなくて、西日本エリアの六甲工場も製造拠点として展開する予定です。ほかにも「シンプルecoラベル」を販売している自動販売機も現在(2022年3月時点)全国で約4500台設置されており、今後も増加していく見込みであるなど、ラベルレスボトルはこれからさらに普及していくと思われます。


― 近年、20代の多くがSDGsや社会貢献に高い関心を持っています。辻谷さんご自身がそういった観点で心掛けていることはありますか


繰り返しになりますが、いかに廃棄物や不良品、製造工程におけるロスを減らし、効率性を向上させるかということを業務内でも意識するようにしています。
普段生活している中でも、自社だけではなく他社、それも飲料や食品メーカーだけでなくさまざまな業界を見回し、廃棄物の処理に活用されている技術に目を向けるなど、常にアンテナを張るようにしていますね。そうした情報を自社製品の製造現場にも活かすことで、今後はさらに多くの人に、アサヒ飲料=環境に優しい企業というイメージをもってもらえたら、と思っています。

アサヒ飲料株式会社
1972年4月1日創立。「三ツ矢サイダー」「ウィルキンソン」「カルピス」をはじめ、ロングセラーブランドを持つ飲料メーカーとして、「お客様にとってなくてはならない飲料会社になる」ことに挑戦し続けている。社会との約束として『100年のワクワクと笑顔を。』を掲げ、ココロとカラダに驚きや感動、笑顔を届けるという想いの下、商品・サービスを磨き上げつつ、社会で一番信頼される企業であり続けるために、社会との共有価値(CSV)推進にも注力。「健康」「環境」「地域共創」という3つのマテリアリティごとに、最大限の価値創造を追求し続けている。

この記事を書いた人

20代の働き方研究所 研究員 T.H

1991年5月生まれ。
大学卒業後、就職情報会社にクリエイターとして入社。以降、規模や業種を問わずさまざまな企業の採用サイトやパンフレットなどを制作。モットーは「ユーザー起点」。20代の働き方研究所では、記事執筆のほかコンテンツ制作も担当。休日の過ごし方は読書と古着屋巡り。 
#コンテンツディレクション #社会課題の可視化 #現代アート

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