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2022.10.12INTERVIEW

15年の官庁勤務を経て、ベンチャー企業へ転職。官・民の経験を活かした「社会のルールをつくる」存在へ

20代の働き方研究所 研究員 H.O.
株式会社TRUSTDOCK Public Affairs担当
神谷 英亮(かみや えいすけ)様


銀行口座の開設、携帯電話の契約といった重要な手続きを、オンライン上で完結させることができる世の中に変わりつつあります。今回は「eKYC(※)」と呼ばれる“オンライン本人確認”のサービスを手掛ける株式会社TRUSTDOCK(トラストドック)で「Public Affairs」としてご活躍されている神谷さんにお話をお伺いしました。官庁で15年勤務したキャリアを活かし、「オンライン本人確認」に関するルール形成を現在は民間企業から推進する神谷さん。ご経歴や「Public Affairs」の仕事内容、官民をどちらも経験したからこそ感じる課題などについてお話いただきました。
※オンライン上で本人確認を完結するための技術(electronic Know Your Customerの略称)

~Public Affairs(パブリック・アフェアーズ)とは~
企業・団体が政府機関や業界団体との関係性を構築し、事業展開を円滑に行えるよう、ルール形成を働きかける役割を担っています。
TRUSTDOCKでは、「本人確認」をオンラインで行うサービスを展開しており、民間企業の立場から関連するルールや政策について立案・提案を行うためのポジションとして機能しています。

「国の仕組みを作っていきたい」という想い。民間企業から法務省職員に
―まずは現在のお仕事の基盤となった官庁でのご経歴をお伺いしたいと思います。どのような経緯で入省されたのでしょうか

実は、いきなり入省したわけではありません。ファーストキャリアは新聞社で、販売店の経営指導を行っていました。しかし、2年勤務したタイミングでどうしても「社会の枠組みをつくる仕事に就きたい」という夢を諦めきれず、退職して国家公務員試験を受けることに決めました。

退職した時は試験を受けてから入省まで、ゴールに向かって短い一本道だと思っていましたが、結果的に4年間、飲食業や接客業を中心にフリーター生活を経験することになり、2006年に法務省に拾ってもらって入省することができたという経緯でした。

―入省されてからはどのようなことを経験されたのでしょうか

約15年間のキャリアでは、法務省から始まり、厚労省、内閣官房など、様々な経験をさせていただきました。中でも現在の仕事に直接つながっている経験として、内閣官房で携わった“サイバーセキュリティ基本法改正”があります。

それまで、民間企業と共同で進めるプロジェクトをいくつか経験していましたが、そのほとんどは既存の枠組みを官庁が改善、推進していくものでした。しかし、“サイバーセキュリティ”の領域は、枠組みの構築自体が発展途上にあり、世界中で次々と新しい事案や事象が起きているため、官側での検討や情報収集のみでは有効な対策を打ち出すことができない状態にありました。

最先端の取り組みを行っている民間企業との連携機会を増やし、法改正をして迅速な情報提供ができるようにする、新しい政策の進め方を経験することができました。

再度民間企業への転職を決意し、ベンチャー企業へ

―15年の官庁勤務を経て、現職に就かれていますが、転職をしようと思われたのはなぜでしょうか

「社会の枠組みを作っていきたい」。そう思って入省し、やりたいことができる夢のような日々だったことは確かです。そんな生活の中でも転職を考えるようになったきっかけは、民間企業や民間の方々が持つ“熱意”に直接触れたことが大きかったです。

当時は民間企業出身の官庁職員が珍しかったこともあり、多くの官民連携プロジェクトを経験させていただきました。官庁は常に「何か」が発生した後、アクションを起こします。技術が急速に進展し、価値観が多様化する社会の中で、起きた事象に対応するためのルールをつくっても、途端に古いルールになってしまうことの無力感を覚えることが少なくありませんでした。

民間企業の方々はそれよりももっと前から技術を磨き、サービスをつくり、競争環境の中でそれらを広めようとする行動をしています。意思決定のスピードも圧倒的に早く、何より“熱意と愛情”を持って自分たちのサービスやプロダクトを語る姿に、強い魅力を感じるようになりました。「転職活動をしてみたらどうなるんだろう」という興味本位から始め、転職サイトに登録し、コンサルタントにアドバイスされるがまま、オファーをいただいた企業の面接を受けるようになりました。

―TRUSTDOCKに入社されたのには、どのような経緯があったのでしょうか

転職活動では主に“ICT”に関する事業を行っている企業を中心に検討していました。オファーは現在の「Public Affairs(以下PA)」のポジションではなく、「Government Relations(以下GR)」というポジションでのオファーをいただくことが多くありました。

~Government Relations(ガバメント・リレーションズ)とは~
Public Affairsと同様に行政機関と関わりを持つポジションですが、その中でも行政機関向けの調達獲得を主目的とする役割を担っています。
TRUSTDOCKでは、ルールや施策の立案や企画をPAが担当し、調達案件についてはGRとチームと連携した対応を行っています。


やはりどの企業も官庁への営業や調達確保に結びつく直接的な関係構築ができる人材を求めていたんですね。しかし、GRとしてオファーをいただく中で、自分が民側に移ってまで進めたい仕事は、民側からの官民連携、政策形成、制度設計であるという想いが明確になりましたし、特定の業種業界に限ることなく、広く分野を跨いで関与できる仕事に就きたいという気持ちが固まっていきました。

その中で、「eKYC(オンライン本人確認サービス)」を進めるTRUSTDOCKは、業界業種横断的なルール形成のフィールドを感じさせてくれたため、入社を決めました。

そのため、入社直後に経営層へ「やりたいことは、政策・ルール形成なので、Public Affairsチームをつくり、PAとして活動してもいいですか?」と提案して、当社にPublic Affairsが誕生しました。入社からしばらく経った現在ではPAチームメンバーは3名、GRのメンバーも人数が増え、二つのチームで連携を取りながら仕事をしています。

プライベートも大きく変わりました。官庁時代は国会対応など家に持ち帰ることが出来ない仕事も多かったため、残業もそれなりにあったのですが、現在はリモートワークが中心となり、平日は自分で作ったランチを食べ、夕方には「おかえり」と子供を出迎える生活をしています。

官庁の経験を活かした、自分にしかなれないPAに

―TRUSTDOCKではPAとしてどのような仕事をされているのでしょうか

主に「eKYC(オンライン本人確認サービス)」を社会全体に普及促進するためのルールや施策の企画立案や、官庁、民間企業、業界団体との関係構築を行っています。

最近ですと「シェアリングエコノミーサービス」をはじめ、オンラインが主体の新たなマーケットが次々と生まれてきており、オンライン本人確認の活用シーンや重要性は急速に高まっています。例えば、家事代行サービスに登録をして、スタッフの方が自宅に来てくれて、家事をしてくれるサービスをお願いした場合、来てくれる人も家で迎え入れる人も相手がどのような人なのか不安なので、プラットフォーム事業者に確認してほしいですよね。

しかし、現在の法律では一部のサービスを除き、本人確認は義務化されておらず、事業内容ごとに合わせた本人確認の基準も定められていないんです。
例えば、家事代行サービスの場合でも、自己申告のみで登録できるサービスもあれば、クレジットカードを発行するときに使用するような本人確認を求めるサービスもあり、対応はバラバラです。もし、サービスに応じた本人確認を選択することができれば、利用者の安全・安心が確保できるだけでなく、過剰な本人確認をユーザーの方々に求めなくてもよくなり、新規参入のハードルが下がったり、事業の拡大を促進することにも繋がると考えています。

そのため、この問題は本人確認のプロダクトを持っている当社だけではなく、サービスを利用いただく事業者さんにとっても重要なことなんです。現在はeKYCを取り扱う同業他社、業界団体、官庁と連携をして、事業やサービスに合わせた本人確認を選択しやすくするガイドラインの整備を目指し、活動をしています。

―専門的かつ、幅広い方との関係構築が必要ということでしょうか

そうですね。本人確認の事業を行っているのは私たちだけではありませんし、本人確認に不可欠な身分証を例に挙げても、国としてはマイナンバーカードを推進したいと考えていますが、事業者の中には運転免許証や、ユーザーに在留外国人が多ければ在留カードといったもので対応したいと考えるなど、様々な視点や立場があるため、ルール形成は簡単には進みません。考えの隔たりを踏まえながらも社会全体の最適解を目指して、官民連携を進め、関係者の合意形成を図っていく今の仕事には、大きなやりがいを感じています。

―実際にPAとして働く中で気がついたことや、大切にしていることがあれば教えてください

官庁で官民連携をしていた頃と比べ、民間企業同士で主張が対立する現場を目の当たりにするようになりました。当然ながら民間企業はルール形成を進めながら同時に自社の利益も追求していかなければならず、その中でどうやって効率的に話を進めていくのかに特に気を配っています。立場や主張の異なる事業者の意見の相違を整理し、事業者で合意できる点と、政府の関心事が重なり合う点を先頭に立って探っていくことは、官庁での勤務経験をもつ自分のような者でなければ対応は難しいと思います。

その他に大切にしていることは、必要と考えるルールや施策について、最後まで粘り強く実現させるということです。施策が実現されなければ課題を解決することはできないため、法令で言えば施行まで走り切ることを常に意識しています。このマインドは官庁時代から大切にしており、今の仕事にも経験を十分に活かせていると感じています。

「ルールを作る」ことは、あくまでよりよい社会の実現に向けたステップ

―その中で、TRUSTDOCKが目指しているオンライン本人確認の未来についても教えてください

私たちは、安全・安心に、そして利便性高く、本人確認ができる世の中にしたいと思っています。オンラインかオフラインかといったことや、本人確認に必要で便利な身分証はマイナンバーカードか運転免許証か、などをユーザー側が選択できる社会が望ましいと考えます。そのため、eKYCサービスを導入していただくのは事業者様なのですが、一番大切にしている視点は本人確認の手続きを実際に行う、ユーザー様の視点です。

また、本人確認のサービスの特性上、個人情報の取り扱いについては、厳格な対応が必要であると考えます。プロダクト面、UI/UXの観点だけでなく、法令面でもニーズに誠実に応えていきたい。この両面からしっかり対応できるのが当社の強みであり、魅力的なところですね。

私はPAとして「ルールを作る」という役割を担っていますが、TRUSTDOCKは技術の力でプロダクトを作る会社です。プロダクトを通してユーザーにとってよりよい社会の実現を目指していく、これが基本線であり、私はあくまでもそのために必要な環境を整備することに徹するべきと考えています。

―最後に神谷さんから20代の読者にメッセージをお願いします

自社内もそうですが、昨今、特に若い方の中で「社会のために役立ちたい」という考えを持った方が増えてきている感覚があります。そうした方たちに自分の失敗や経験を踏まえてお伝えしたいのは「人に興味、関心をもって、多くの人と関わって欲しい」ということです。さらに言うならば、「自分と対極にある人、関わることの無かった人」との交流です。

自分とは違う価値観に積極的に触れてみてください。現在のPAの仕事において、利害関係が複雑に絡み合う際に、それぞれの意見を汲み取り、対話していくためのヒントになっています。

思惑や目指す方向の異なる人たちと交流を持てるようになったら、次のステップとしてお互いの意見を率直にぶつけてみて、双方がハッピーになれるような未来を一緒に考えてみてください。折り合わず、最終的な意見が一致しないことの方がほとんどですが、そうしたコミュニケーションを大切にすることで調整能力が、またコミュニケーション能力そのものがメキメキと高まっていきます。

今はリアルタイムに世界中の人たちと繋がれる時代であり、カルチャーやスタンスを別にする人たちとコミュニケーションを取りやすい環境があります。まずは小さなアクションから始めてみるとよいと思います。私自身も、時にオンライン本人確認も織り混ぜながら、様々な方との交流や意見の交換に取り組んで、真のPA道を究めていけるように、日々心掛けて行動していきます。
株式会社TRUSTDOCK
2017年より日本初の顧客の身元確認をDXする「TRUSTDOCK」(トラストドック)の事業をスタート。「デジタル身分証アプリ」と「eKYC本人確認サービス」を提供し、様々な取引・手続きをデジタル化する際の「オンラインでの顧客確認」の課題を解決。
専門会社として、あらゆる業法に対応する本人確認サービスとノウハウで、安全・安心なサービスを担保し、大手企業からスタートアップ企業、自治体・省庁でも採用されるなど、着実に実績を積み重ねている。

この記事を書いた人

20代の働き方研究所 研究員 H.O.

1994年8月生まれ。
新卒で老舗写真プロラボに入社。フィルムから写真のプリント行うニッチな仕事を経験後、自身の転職活動を通して気づいた想いを仕事にしたいと思い、人材サービス業へ転職。
20代の働き方研究所では、一人で取材も撮影も行うライターとして記事執筆を行っている。
#HR Tech #ジム通い(3ヵ月目) #メタバース

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