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2022.11.30INTERVIEW

開発途上国での新型コロナウイルス感染拡大を防ぐ“手洗いステーション”。LIXILの開発者が取り組んでいる『グローバルな衛生課題の解決』とは?

20代の働き方研究所 研究員 Y.S.
株式会社LIXIL
「SATO」事業部
イノベーションリーダー 
石山 大吾(いしやま だいご)様


「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」をパーパス(存在意義)に掲げるLIXIL。世界150ヵ国で毎日10億人の人々が同社の製品を利用しています。同社では事業の持続的な成長基盤としてCR(コーポレート・レスポンシビリティ)戦略に「グローバルな衛生課題の解決」「水の保全と環境保護」「多様性の尊重」を優先取り組み分野としています。今回お話を伺った石山さんは、開発途上国向けの簡易式トイレシステム「SATO」事業のイノベーションリーダーであり、水道がなくても使える手洗いステーション「SATO Tap」の開発者です。その開発背景や仕事を通じてSDGs達成に貢献する石山さんが大切にしていることについてお話を伺いました。

「SATO」事業と「SATO Tap」
世界で約17億人が安全で衛生的なトイレのない環境で暮らしており、その内の4.9億人が日常的に屋外で排泄をしています。「SATO」は開発途上国の下水道の整備が十分でない地域向けの簡易式トイレシステム。

「SATO Tap」は世界30億人とされる手洗い設備を利用できない方の衛生環境改善のために開発された簡易式の手洗いステーション。2020年の夏にインドで生産が始まり、22年1月からは小売り販売も開始。現在はタンザニアでも生産され周辺のアフリカ諸国への出荷計画もされている他、2022年6月現在、ユニセフを通じて30万台が寄付されています。


2022年6月時点、SATO製品は45ヵ国以上で3500万人に利用されています。

日本とアメリカで機械工学を専攻。開発途上国向けのプログラムに名乗りを上げる

―まずはこれまでのご経歴について伺います。どのような経緯でLIXILに入社され、「SATO」事業部で仕事をされるようになったのでしょうか

大学と大学院で機械工学と工業デザインを学んだ後、2002年にアメリカンスタンダードに入社し、トイレを含む水まわり製品の開発を担当していました。2012年、当時の上司から後に「SATO」事業となる開発途上国向けのシンプルなトイレの開発プロジェクトを立ち上げると発表があり、名乗りを上げて参加したのが今の仕事に関わるきっかけとなりました。現在では「SATO」事業部のイノベーションリーダーとして仕事しています。
※株式会社LIXILのグループ会社(2013年以降)

―トイレを含む水まわりの製品開発とのことですが、衛生関連製品などに興味を持たれたのは何かきっかけがあったのでしょうか

大学院に進学するタイミングで渡米したのですが、卒業する直前に現地の企業で働き、実習を受けるプラクティカル・トレーニングというプログラムに参加しました。受け入れ先のソフトウェアの会社にそのまま入社するつもりでしたが、9.11の同時多発テロ事件が発生し、アメリカ経済に激震が走りました。戦争に突入したような雰囲気になり、株価も大暴落するような状況で、改めて仕事を探さなくてはいけなくなりました。そこでアメリカンスタンダードの求人に応募したところ、採用されました。

―偶然の入社とも言える状況だったのですね

はい。ただ、企業を選ぶにあたり、水まわり製品の中でも特にトイレは人々の生活に欠かせないもので、やりがいのある仕事に挑戦できるのではないかと思いました。そうした分野で自分の専門性を活かし、「何かすごいものを作ってやろう」という意気込みで入社しました。

―2012年に開発途上国向けのプロジェクトに名乗りを上げたそうですが、どんなきっかけからだったのでしょう

学生時代に東南アジアを周った際に訪れた村にトイレがなかったり、身体を洗うためのシャワーや顔を洗うために蛇口を捻ったら茶色い水が出てきたことが強く記憶に残っていました。プロジェクト立ち上げを聞いた時には、そうした環境の改善に貢献できると考えて参加したのです。

―以来、「SATO」事業に携わられているのでしょうか

はい。2012年に始まり、当初はビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成を受けてバングラデシュに現地調査に行きました。そして初期モデルのトイレを開発しました。その後も色々な国や地域に合った製品を開発し、現在では45ヵ国以上、3500万人の衛生環境の改善に貢献しています。

また、LIXILとしては事業を通して社会課題解決に貢献するCR戦略を重視しており、2017年に3つの優先取り組み分野を設けていますが、SATOはその中の一つにある「グローバルな衛生課題の解決」に貢献する事業になっています。

―長く続けてこられた中で、どのようなところにやりがいや面白さを見出されているのでしょうか

現地調査で、衛生環境のヒアリングをさせていただいた方々の家庭に行って、SATOのトイレを設置した後の生活がそれ以前と比べて格段に向上していて、嬉しいフィードバックを聞くことができたときにやりがいを感じますね。 

新型コロナウイルスの感染が転機に。お風呂で遊ぶ息子から着想を得る

―そして手洗いステーションである「SATO Tap」の開発で、さらに多くの人々の衛生環境の改善に取り組まれていますが、開発の背景には何があったのでしょうか

転機になったのは2020年3月でした。私も新型コロナウイルスに感染してしまい、一人で隔離生活を送っていました。インターネットで情報収集したり、SATOのチームから色々な地域のデータをもらいながら10日ほど部屋に閉じこもっていた間、新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威を振るっていることを知りました。

ソーシャルディスタンスやマスクの着用、そして手洗いをすることが感染拡大を防ぐ上で有効だとWHOなどが提唱していましたが、世界人口の30%が家庭に水道、手洗い場や石鹸がないという現状を知っていた私は、開発途上国でもきちんと手洗いを実践するために何かできないかと考えるようになったんです。

そこで思いついたのが手洗い器でした。LIXILはもともと事業を通じてSDGsゴール6「安全な水とトイレを世界中に」の達成を推進していましたが、新型コロナウイルス感染拡大という状況で、「いま手洗い器を作らなければ一体いつ作るんだ」という使命感に駆られ、咳き込みながら色々な製品案を考えてはスケッチしていました。

幸いなことに症状が収まったある日、息子をお風呂に入れていた時におもちゃのコップからコップに水を移して遊んでいる姿を見て、「この現象を人工的に作ればうまくいくんじゃないか」と考えたんです。重力と水の特性を生かした手洗い器をつくろうと、そこから6週間ほど複数のコンセプトモデルで試行錯誤を経て、完成したのが「SATO Tap」でした。

―お子さんの遊ぶ姿から着想されたそうですが、そこからはスムーズに開発できたのでしょうか

スムーズとは言えなかったですね。本当に悩みながら開発していましたので、時には眠れなかった日もありました。ただ、コロナ禍でどこにも行けない時期ではあったので、開発に没頭できる良いタイミングだったと思います。とはいえ、プロトタイプを作ろうとホームセンターに材料の買い物にいっても、店に入るまでに長時間待たされたり、品薄で手に入らないといったこともありました。最終的にはペットボトルを使った製品になりましたが、肝心のペットボトルすらもなかなか入手できませんでした。

自作できるコンセプトモデルの次は3Dプリンタ業者に依頼して複雑なパーツで試作機を作る段階に入るのですが、ここでも壁にぶつかりました。当時は医療用マスクのパーツ製造の依頼が殺到しており、業者も余裕がなかったんです。ただ、空いている機械が一つあり、昔からの付き合いのある仲だったので、何とかお願いして3Dプリンタのマシンを貸してもらいました。

また、通常であればできたパーツは輸送してもらえるのですが、当時は配達の需要が増加したことで、通販でものを頼んでも1~2ヵ月かかるような状況でした。片道45分の道のりを自分で運転して出来上がったパーツを取りに行ったりしていましたね。

―開発にあたってどのような点を工夫されたのでしょうか

難しい問題に対してシンプルな答えを提示することが大切だと考え、「SATO Tap」もシンプルであるべきだと考えました。構造も組み立て方も使い方も簡単にし、取扱説明書がなくても誰でも使えることを最優先にしました。そうすると必然的に形も機能もシンプルになり、価格も安価になっていき、多くの人の手の届く価格帯で提供できるようになります。もちろんこれはSATO事業の製品すべてに共通していることです。

―その後はどのようなステップを踏んでリリースに至ったのでしょうか

SATO Tapを発表したのは2020年6月のことでした。その後、インドで金型を製造し、フィールドテストを南アジアとアフリカで実施しました。その時に得られたユーザーからのフィードバックをもとに、2021年の春に製品改善を終え、現在ではインドで販売されています。アフリカ諸国でも出荷間近のタイミングです。
 
簡易式手洗いステーション「SATO Tap」


―SATO Tapをはじめ、石山さんは自分の開発した製品で多くの人々の衛生環境を改善されてきましたが、この事業の意義はどこにあるとお考えでしょうか

LIXILは「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」をパーパス(存在意義)としています。革新的な水まわり製品や建材製品を150ヵ国以上で提供し、毎日10億人もの人々が私たちの製品を使っています。

先進国であろうと開発途上国であろうとLIXILでは世界中の人々の暮らしを支えていきたいと考えています。その上で「SATO」は開発途上国の人々に製品・サービスを提供しているところに意義があります。

また、開発途上国向けの製品を開発しているとはいえ、その人々の生活の質が向上していくにつれてニーズの水準もどんどん上がっていくと予想されます。そうなればLIXILが展開する他のブランドで応えていくことができるのです。

―今後解決したい課題やこんな製品を開発したいなど、目標はありますか

環境汚染や気候変動などの問題が注目されていますが、過去に例のない様な異常気象がアメリカでも起きています。そうした中、事業でも環境問題へ配慮するのに加えて課題解決の一助となるような取り組みをしていきたいと考えています。

具体的には製品開発においてリサイクルされたプラスチックを使用したり、バイオプラスチックを混ぜる試験をしています。今後も石油に頼らない製品開発は続けていきたいですね。また、作るだけではなく役目を終えた後の製品の行く末についても考え始めています。

次世代にとってより良い未来を残すために。問題意識を持つことが社会課題の解決への第一歩

―石山さんのお仕事はまさにSDGsの達成に貢献するものですが、仕事をする上で大切にしていることはありますか

チャリティー活動などの場合には支援があって成り立つものなので、継続的な活動が難しくなることがありますが、LIXILは事業活動を通じて継続的に社会課題の解決に向き合うことで、SDGsの達成に貢献しています。「SATO」事業はSDGsゴール6「安全な水とトイレを世界中に」に直接貢献していますが、それだけではなく、トイレが学校に出来たことによって女の子が安心して通学出来るようになるなど、間接的にゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」に貢献しているといった面もあります。

さらにゴール17「パートナーシップで目標を解決する」も実践しています。LIXIL1社だけではなくユニセフとのパートナーシップ「MAKE A SPLASH!」や、USAID(米国国際開発庁)の助成など、共に強みを活かしながら共通した目標に向かって活動するパートナーとの連携がより多くの方の衛生環境の改善に繋がります。

―SDGs達成のハードルは決して低いものではありません。めげずにここまで続けてこられた、これからも続けていこうと思うのはなぜでしょう

粘り強いというか、めげずにやり切るという性格も相まって、製品を一度リリースしても修正点があればすぐに改善して、常に現地の人たちのニーズに応えるために出来ることを考えています。完璧なものが出来るなんてことはない、という姿勢で現地の皆さんの声を拾い続けています。

また、人が生きられるのは80年から長くても100年くらいですよね。私にも息子がいるので、生きている間に次世代にもっと良い環境や地球を残すにはどうすれば良いのかという命題は他人事ではありません。それが仕事を通じて課題を解決する使命感ややりがいに繋がって、続けてこられたのだと考えています。
 
バングラデシュでの現地調査の様子


―様々なお話を聞かせていただきありがとうございます。読者である20代の方の中にはSDGsの達成に貢献することをはじめ、仕事を選ぶ上で社会貢献性を大切にする方も数多くいらっしゃいます。そう考える読者の皆さんに、石山さんからメッセージをお願いします

自分が20代だったときに考えていたことは「問題意識を持つ」ということでした。アメリカンスタンダードに入社し、トイレの製造には様々な工程があることが分かりました。衛生陶器の製造は非常に難しいもので、分からないことや、改善点を思いつけば、すぐに上司に話しにいきました。幸いなことに協力的な上司が多く、たくさんの経験を積むことができました。

また、学生時代にバックパッカーで開発途上国を周った経験や、それらの地域に関わる仕事に興味があることは周囲に伝えていたので、それらの地域の人々をターゲットにしたプロジェクトが立ち上がった時に声をかけていただけました。

「自分だったらどうするのか」という発想は非常に大切で、SDGsの達成に貢献したいと思いついたら漠然と関わってみたいと思うのではなく、「自分だったらどうやって解決するのか」ということを突き詰めて考えてみてください。そうすれば、いま不足しているスキルに気づけたり、どのような仕事がその思いを叶えてくれるか、という最適解を見つける力となると思います。

なお、スキルを磨く上では120%の努力が必要だと思っています。私の場合、アメリカに来てまず身に付けたかったのはCAD(Computer Aided Design)のスキルでした。頭に描いたものを作れるようにするために必要不可欠だったからです。大学院ではCADのコースを全て受講し、さらに担当教授に「課題をもっと出してくれ」とお願いしていました。100%以上やった分の努力が次に繋がると考える私は、それを信じて勉強しました。結果的にその努力がプラクティカル・トレーニングのCADソフトウェア会社への採用に繋がり、至っては今のSATOの仕事に繋がりました。

自分がどうなりたいのか、自分の目標が何かということを明確にし、時折周りの人たちに伝え、さらにスキルが伴っていれば機会が巡ってきた際にそれを手にすることができると思います。チャンスをつかむために、常に問題意識を持ち、日々スキルアップに励んでください。

株式会社LIXIL
「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」をパーパス(存在意義)とし、独自の個性を持つ数多くのブランドを通じ世界150ヵ国で毎日10億人の人々を支える。CR(コーポレート・レスポンシビリティ)戦略の優先取り組み分野の一つである「グローバルな衛生課題の解決」においては、「SATO」事業を中核にこれまでに45ヵ国以上、約3500万人の衛生課題を改善している。
 

この記事を書いた人

20代の働き方研究所 研究員 Y.S.

1991年12月生まれ。
新卒で大手新聞社に入社。記者として取材・記事の執筆を経験後、Webサービスを手掛ける企業に転職。約20名のメンバーのマネジメントの傍ら、Webサイトの開発・サイトの集客プロモーション・取材やライティングを幅広く担当。20代の働き方研究所では、企業へのインタビュー取材・取材記事執筆を担っている。
#カスタマーサクセス #コンテンツディレクション #イベントプロモーション #仕事終わりの晩酌が日課

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