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2023.02.08INTERVIEW

大学中退、フリーランス、そして起業。インターンシップで見つけた「やりたいこと」を最短ルートで実現してきたキャリアに迫る

20代の働き方研究所 研究員 T.I.
ミクステンド株式会社
代表取締役
北野 智大(きたの ともひろ)様


仕事を選ぶ上で、自分のやりたいことは何なのか、軸はどのように決めればいいのか、悩まれている方も多いと思います。今回お話を伺ったのは、「調整さん」を運営するミクステンド株式会社の代表取締役である北野さん。リクルートでのインターンシップを通じて自分の軸を見つけ、同社が「調整さん」を事業譲渡する際には、自ら譲渡先として手を挙げてミクステンドを創業されました。北野さんのご経歴から、どのようにして自分のやりたいことを見つけ、それを実現してきたのかをお伺いしていきます。

「調整さん」
飲み会・同窓会・歓送迎会など、あらゆる会の主催時に必要になる「全員の日程調整・出欠管理作業」をログインなしで簡単、スムーズに行うことができるWebサービス。月間利用者数は300万人~400万人(2022年7月現在)。
  

インターンシップを通して見えた最短ルート

―大学時代に2年間、リクルートでインターンシップをご経験されたそうですが、そのきっかけを教えてください

幼い頃からコンピューターに興味があり、高校時代には趣味感覚でWebサイトやアプリを自作していました。祖母に自作の脳トレアプリをインストールしたiPadをプレゼントしたこともあります。自分の作ったもので誰かに喜んでもらえたという経験は、その後の自分のキャリアにとってもプラスになっています。

大学進学時には人伝てに仕事を紹介してもらい、すでにフリーランスのエンジニアとして活動を始めており、このままフリーランスとして生計を立てていくのも選択肢の一つだなと思っていました。

一方で、エンジニアとして多くの人に喜ばれるITサービスを作りたいという思いを持っていましたが、それを生み出すにはエンジニアだけでは成し遂げられないことにも気づいていました。デザイナーがいなければUI(ユーザーインターフェース)は良いものになりませんし、マーケターがいなければせっかく作ったサービスも多くの人に届かないなど、エンジニアである自分だけでは限界があったのです。そこで、チームで何かを作ることを学ぼうと考え、インターンシップに参加してみようと考えました。

―そもそもコンピューターに興味を持ったのはなぜでしょうか

昔から家にコンピューターがあったこともありますが、深く興味を持つようになったのは、夏休みの宿題で読書感想文に取り組んだ時のことです。読書感想文というと、原稿用紙を何枚も使って手書きで感想を書くわけですが、あれが大嫌いでして(笑)。工夫もせずに単純にやるのは面白くないので、試しにWordで書いてみたんですが、すらすら書くことができたんです。

なぜ書けたのかを考えてみると、原稿用紙の場合、既に書いた文章のどこかに一文挿入したいとなると、挿入したい箇所の後ろの文章はすべて消さなくてはいけないですよね。こういったアナログの不便さをコンピューターなら解決できることに感動し、改めてコンピューターの可能性や面白さに気づいたのです。小さなことですが、あの感動がエンジニアを目指す上で大きなきっかけとなりました。

―インターンシップではどんなことに取り組まれたのでしょうか

開発メンバーとして、リクルートの新規事業部で「調整さん」を手掛けるチームに入りました。調整さんの利用率を高めるためのいわゆるABテストを行い、UX(ユーザーエクスペリエンス)の向上を模索していましたね。赤と青、どちらの色のボタンの方が最終的にコンバージョンがよくなるのかテストするといったこともありました。

インターンシップに参加することで、自分のスキルを活かせる実感を得ることができただけではなく、デザイナーがデザインを起こし、私がプログラミングで作り、マーケターが広げていくといった工程を体系的に学ぶことができたというのも大きな経験でした。

エンジニアとしてインターンシップに参加し、エンジニアとしてものを作る仕事のイメージを掴むことができたので今日に至っています。インターンシップは仕事体験であると同時に職場体験です。どんな人が関わり商品やサービスが生まれているのか、職場の全体像を見ることができるのは学生の特権なので、学生ならぜひ参加してみてほしいですね。

―その後、大学を中退して、フリーのエンジニアとして「調整さん」に関わり続けることを選んだそうですね

インターンシップには大学を休学して参加していました。学則では休学期間は2年間までと定められており、2年経った時点で復学するか、大学を辞めてフリーのエンジニアとなり、「調整さん」に関わり続けるか選択しなければなりませんでした。

当時の私は、復学するイメージが持てないくらいに「調整さん」の事業にのめりこんでいました。2年間自分たちが作って伸ばしてきたものをパッと忘れて大学に戻るなんてとてもできなかったのです。そのため、「フリーランスになりたい!」という思いがあったというよりは、今の事業に携わり続けたいという思いから最短ルートを逆算した結果、フリーのエンジニアになったのです。



 

「事業譲渡」で夢を叶える

―フリーのエンジニアとしてご活躍されたのち、起業して「調整さん」の事業譲渡を受けられていますが、事業譲渡を受けようと思った理由をお聞かせください

まず事業譲渡の流れを説明すると、黒字かどうかや事業の性質にもよりますが、会社の内部で事業譲渡を決定したのち、内々に譲渡先を探します。そして譲渡先候補とすり合わせし、今後も成長させ続けることができるかどうかなど、譲渡先としてふさわしいかを見定めます。その後問題がなければ晴れて事業譲渡、という流れになります。

もともと「調整さん」はリクルートの新規事業のひとつだったのですが、事業整理することになり、その中に「調整さん」も含まれていました。「調整さん」に関わりつづける上で私が取りうる一番手軽な方法は、譲渡先についていくことです。

しかし、すでに4年間「調整さん」に携わり、リクルートでも一番「調整さん」を知っているポジションになっていました。場所だけ新しくしてこれまで通りのことをやるより、今度は自分で意思決定をして「調整さん」を伸ばしていきたいと考え、ミクステンドを起業し、事業譲渡先として手を挙げたんです。「調整さん」にはたくさんのユーザーがいましたし、事業価値も高いと感じていたので、またとないチャンスでした。

自分の作ったサービスをたくさんの人に使ってもらい、自分もそれで生計を立てていくような生き方ができれば幸せだなと、祖母にアプリをつくっていた高校生のころから自分の会社を持つことをぼんやり思っていましたが、まさか事業譲渡するために起業することになるとは想像もしていませんでした。とはいえ、子どものころの夢が叶った瞬間でした。

―フリーランスのエンジニアになるために大学を中退したり、事業譲渡先として手を挙げたりと、思い切った決断の連続ですね

よく言うなら前向きともいえるかもしれませんね(笑)。ただし、必ずしもすべてが狙ったことではありません。

とはいえ、自分の軸を作って、そのための経験を積むために最良の選択肢を選ぼうとはしてきました。事業譲渡のとき自信をもって手を挙げることができたのは、インターンシップで実力と広い視野をしっかりと身に付けることができたためであったように、最良の選択肢を選び続けてきた結果、自分の夢を実現できたのだと思います。

―20代には「責任のあるポジションに就きたくない」と感じている人もいますが、事業譲渡を受けるために起業し、社長となることに抵抗はなかったのでしょうか

正直、責任の大きさへの恐れはありました。「調整さん」という事業が好きという思いで事業譲渡先として手を挙げましたが、すでに数多くのユーザーに利用されています。新しい会社になったとたんトラブルばかりになってしまうと、これまで支持をいただいていたユーザーもすぐに離れてしまいます。そしてリクルートほど資金も潤沢にはなく、制度も整っていない中だったので、最初は安定的な稼働を心がけていました。

そして事業譲渡は、単に事業を引き継ぐだけではなく、その事業を伸ばしていくことが求められます。自ら手を挙げたのだから、譲渡前と同水準以上の使いやすさを維持するということにも責任を感じていました。

また、事業開発やプロダクト開発についてはかなり学んだつもりでしたが、会社経営についてはさっぱりでした。そこで、創業1年目は会社経営や経理などについてもたくさん調べて、見様見真似で経営していきました。

今でこそミクステンドはユーザー数も売上も右肩上がりで好調なのですが、裏側には経営面での失敗が少なからずありました。例えば、企業を経営する上で、コストを下げる策を講じるのは当然のことですが、創業当初は「自分でやるからDXツールは入れなくていい」「人は極力採用せずに自分も仕事をする」など、私自身がプレイヤーになってしまい、経営がうまく進まないこともありましたね。

半年ぐらい経ってやっと、経営層は会社全体を俯瞰すべきであり、現場への参加は最小限にすべきであることや、それを実現するためにも人員配置やDXなどにもきちんとお金を使うべきだと気づくことができました。

 


 

出会いやビジネスの「はじまりをもっと近くに」

―ミクステンドでは日程調整のプロダクト開発・提供を軸に事業を展開されていますが、こうした事業展開を通して目指す社会を教えてください

商談や面接の際、日程調整の工程って面倒くさいことが多いですよね。カレンダーを見て、メールを送って、返信をもとにまた調整して……。これらはいまだに手作業が多いので、ミスも発生します。ミクステンドが提供する「調整さん」や「TimeRex」を活用することで、こうした時間を削減することができる上、ミスも少なくすることができ、本来取り組むべき作業にもっと時間を使うことができるようになるのです。

また、ミクステンドはミッションとして「はじまりをもっと近くに」を掲げています。日程調整は何かの始まりの第一歩であると考えていて、商談や面接をはじめとした人と人との出会いの多くは日程調整から始まります。この日程調整のハードルを下げ、出会いが生まれやすい社会を作るのが私たちの使命です。

そして、身の回りのアナログで時間がかかっている作業に対するアプローチを続けることで、将来ふと気づいたとき、自分たちのおかげで社会からアナログなものがなくなっているなと思えたら嬉しいですね。その結果ミクステンドも成長し、社員も幸せに暮らせるのが理想です。

―本日は貴重なお話ありがとうございました。最後に、20代の読者に向けたメッセージをお願いします

私もまだまだ道半ばですが、20代を振り返ってみてよかったと思うことは、インターンシップや仕事にがっつりのめりこんだことです。高校や大学で学んだことをベースに、インターンシップを経験し、フリーランスとして業界に飛び込むことで、マーケターやデザイナーとの連携についても見識を広げることができ、全体を総合的に見る経営者というポジションにも進むことができました。ぜひ20代の方には、自分で軸をみつけ、それに合うところにどんどん行って経験を積んでほしいと思います。

「責任のあるポジションに就きたくない」と感じる20代の方もいるかもしれませんが、それは仕事に対してマイナスなイメージが先行しているからではないでしょうか。もちろん、ポジションに就くことが全てではないですが、裁量を持って仕事をすることでしか見えない景色があることも事実です。

それに、心から取り組みたいと思える仕事なら、もしかすると考え方も変わるかもしれません。そのためには、学生ならインターンシップで実務経験を積んで知見を広げること、社会人ならまずは目の前の仕事に前向きに取り組んでみることで、新しい発見があるかもしれません。20代のうちは努力と自己研鑽を思いっきりやってみてください。


ミクステンド株式会社

2018年2月13日創業。リクルートから個人向け日程調整サービス「調整さん」の事業譲渡を受け創業。現在は「調整さん」だけでなく、オンライン商談など、ビジネスシーンでの日程調整で使いやすいWebサービス「TimeRex」を展開。日程調整をはじめとする社会のアナログな課題をITで解決することで、人と人との出会いやビジネスを始める際のハードルを下げる役割を担う。
 

この記事を書いた人

20代の働き方研究所 研究員 T.I.

1995年5月生まれ。
新卒で食料品小売会社に入社。しかし小説家を目指して執筆活動を行っていた経験から、言葉でもっと人を惹きつける仕事がしたくなり一念発起。クリエイターとして就職情報会社に転職。以降、様々な業界の採用サイトやパンフレットの制作に携わる。20代の働き方研究所では記事執筆を担当。趣味はコーヒー豆の焙煎とラテアート。

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